Gene Over│Episode5赤きヒトの涙 11涙の意味-2

 広い物置。
 セフィーリュカは何が入っているのかわからない木箱の上に腰掛けて、追手からの襲撃に備えて緊張しているエヴェスのクルー達を見ていた。フィックとグラを中心に、進むべきルートが話し合われている。エルステンの地理がわからないセフィーリュカ達は現状、彼らに従うしかない。彼女の前ではシェータゼーヌがごちゃごちゃと物が詰め込まれた木製の棚を探っている。
「ここは…宇宙船の通信記録が保存されているみたいだ」
 不意に彼が振り返って、セフィーリュカに向かって何かを手渡した。何だかわからないまま受け取ると、それは長方形の銀色をした薄いデータディスクだった。端に小さくエルステン語が印刷されている。
「宇宙暦二二二五年……ハイン籍交易船…ユージェコゲリ………入港記録」
 ぽつりぽつりとセフィーリュカはエルステン語の印字を翻訳していった。
「二年前の記録か…。これだけの数あれば、十数年分保管してありそうだな」
 シェータゼーヌが棚に手を付いて見上げる。数え切れない程のデータディスクが棚を埋め尽くしているが、それは必ずしも整然と並んでいるわけではなかった。
「杜撰な管理ですね」
 冷淡な声にセフィーリュカが振り向くと、コアルティンスが不満気に棚を見上げていた。埃にまみれた粗雑な様子が気に食わないようである。
「でも…政府を糾弾するに足る何かがあるかもしれませんね」
「糾弾って…コアさん、物騒な…」
 セフィーリュカが心配そうに顔を覗き込むと、コアルティンスは意志の強そうな瞳を向けた。
「そう思われても構いません。僕は、もう許せないんです。これ以上、ヒュプノスを傷つける原因を作るようなエルステン人達を…」
 彼はそう言って唇を噛みしめた。ヴァルケータを犠牲にしたことは、仲間のフェノンだけでなく、長い期間関わりを持ってきたコアルティンスの心を傷つけるにも充分過ぎる出来事だった。
「コアさん…」
 何か言ってあげられることはないのか。セフィーリュカがかろうじて彼の名を呼んだ時、突如背後で爆音がした。一瞬何が起きたのか理解出来ず、セフィーリュカはきょろきょろと辺りを見回した。
「もしかして、追手…!?」
 セフィーリュカはとっさに立ち上がると、傍に横たえさせられているメティーゼに駆け寄っていた。自分など無力だとはわかっていても、守らなくてはと思った。セフィーリュカの意志を汲んでか、ムーンもくるくるとセフィーリュカの周りを巡る。
 爆音のした方を見ると、壁に大きな穴ができていた。壁の破片がそこらじゅうに散らばってはいるものの、幸い周囲に人はなく、怪我をした人間はいないようだった。エヴェスのクルー達は手入れもそこそこの武器を構えて緊張していた。彼らに並ぶようにして、フェノンも自分の銃を構えている。
 壊された壁の向こうから足音が聞こえてきた。
 煙が徐々に晴れ、セフィーリュカから始めに見えたのは赤い双眸だった。
「あ…!」
 小さく声を上げ、フェノンが銃を降ろした。無造作に伸びた橙色の髪を首の後ろで束ねた姿には見覚えがある。
「…ドーラン!?」
 彼女が駆け寄ると、ドーランは一瞬呆然と彼女を見下ろした。
「フェノン…フェノンなのか!?」
 信じられないといった顔で彼はフェノンを見た。フェノンにとっても、ドーランがこの場にいることが不思議でならない。
「何でこんな所にいるの?ダースジアにいるはずじゃ…」
「それはこっちの台詞だ。お前、まだプロティアにいるんだと思っていたぜ。そのうち迎えに行ってやろうと思っていたんだが…」
 言いかけて、ドーランはフェノンの背後に赤い髪を見た。空色の髪の少女が守るように抱きかかえているそれは確かにメティーゼだった。
「メティーゼ…!あいつが無事だったってことは、さっきの爆発…」
「……うん…ヴァルケータが…」
 フェノンはそう言ってドーランから目を逸らした。そんな彼女の横をすり抜け、ドーランは眠り続けるメティーゼに歩み寄った。彼女を守るように座っていたセフィーリュカはドーランの赤い瞳を見て一瞬ひるんでしまう。同じヒュプノスでありながら、フェノン達とはどこか違う、悲しげな、怒りを含んだような、瞳だった。
「どきな、ニンゲン。もうお前達に仲間を預けるわけにはいかない」
 ドーランが冷たく言い放つ。セフィーリュカが呆然として言い返せずにいると、コアルティンスが助け舟を出した。
「ドーラン、そんな言い方はやめてくれ」
「フォルシモ博士…あんたの言うことをきく義務はなくなったはずだぜ。もう、いいだろう?まだ…俺達に『死ね』というのか?」
 赤い瞳がかげる。フィーノの死を一番近い場所で見ていた彼は、誰よりも仲間の死を恐れていた。
「死ねだなんて、コアさんはそんなこと望んでいません。あなた達のために…」
「全てのニンゲンがそれを望んでいないと言い切れるのか?」
 口を挟んだセフィーリュカに、ドーランは冷たく言い返した。
「お前達の弱さが俺達のような存在を作った。弱さを隠すための盾だ。それを完全に取り払ってお前達は生きていけるのか?…出来るはずがない。だからニンゲンはいつまでも醜く争っているんだからな。呆れるほどに…何千年も」
「それは……」
 セフィーリュカは寒気がする思いで彼の言葉を聞いた。常に戦いに身を置くヒュプノス。多くの死だけでなく、ヒトの愚かさも何度となく見てきたヒュプノス。彼らは、プロティアで安全に暮らしてきたセフィーリュカよりもよほど人間の本質を見抜いている―。
 本当の人間って何だろう。
 人間のことを知らない人間と、人間のことを理解している機械。
 セフィーリュカにとって、ドーランという個体はひどく恐ろしいもののように思われた。
「弱いのはあんたの方よ。まだNo.2のことを引きずってるなんて、情けないわね」
 不意に横から声がした。セフィーリュカの肩に手をかけて突然起き上がったメティーゼは、ドーランを見て開口一番そう言った。その場の全員が言葉を失う。
「メティーゼさん…」
 セフィーリュカには自分が見ているものが俄かに信じられなかった。
 真っ直ぐに向けた視線。
 そのメティーゼの瞳には光るものがあった。
「メティーゼ…お前…」
 ドーランに指差され、メティーゼは初めて自分の頬に手を触れた。冷たい液体が伝っている。彼女は自分の指先についたそれを見て驚くわけでもなく、ただドーランを、そしてフェノンを見ていた。
「いなくなったものは何も語らない。だからあんた達は今まで気付かずにいた。でも、私には…私にはわかる。ヴァルが最期に残してくれたから。データという形で残してくれたから」
 淡々と話す彼女の前にフェノンは膝をついた。メティーゼの涙を真剣に見つめる。
「涙が…データ?」
「そう。これは私達の感情プログラムの……バグなのよ。人間のそれとは違う意味を持つ…小さな、私達の特質…」
 メティーゼはそう言って立ち上がった。つかつかとドーランに歩み寄ると零れる涙を拭おうともせずに背の高い彼を見上げる。
「No.2は苦しくなかった。あんたを守ることが出来たんだから。だから…人間を恨むのは間違ってるのよ、No.7」
「何を…」
「私達は…ヒュプノスは、『納得出来る死を認識した時』涙を流すの」
「……………」
 誰もが押し黙った。
 記憶並列という、10ナンバーだけが持つ特殊能力によって初めて得られたデータ。
 何年も謎に包まれていた機構が明かされた。
「納得出来る死…?」
 ドーランが反復する。メティーゼは確信を持った瞳で頷いた。
「ヴァルの最期の感情はとても落ち着いていて、満たされていた。私達を守って自爆すること…ヴァルは納得出来たの。自分の死には意味があるんだって」
 起爆装置のセーフティを解除した時の彼の感情を、今のメティーゼには素直に受け取ることが出来た。それは、人間によって命じられるまま、人間に対する不信や絶望を胸に抱きながら死んでいった他の八体の記憶とは違う、とてもすんなりと受け入れられる死だった。
「…No.2もそうだったのよ。あんたが見たっていう彼女の涙は、あんたを生かす代わりに自分が死ぬことへの納得の証だったの」
「フィーノ…が…?」
 ドーランは自然とフェノンを見ていた。彼女はゆっくりと彼に視線を合わせる。
「あたしにはフィーノの記憶がない。…だけどね、ドーラン…あたし、少しだけ見えることがある。ふとした時にフィーノがどう思っていたか…」
 プロティアでゼファーと銃を向けあった時のことを思い出す。あの時確かにフェノンはフィーノの記憶を垣間見た。ゼファーやセフィーリュカに似ている人物を撃った記憶を。その時の感情を。
「フィーノは、任務を辛いと感じてた。仲間を処分する任務も、時々命令される人間を殺す任務も…。銃を構える度に、何かが強く感情システムを圧迫してた…」
 フェノンの言葉に驚いたのはコアルティンスだった。チアキの残した理論には前駆体の記憶が受け継がれることなど記されていなかったのだ。
「ニンゲンを殺すことも辛いと感じていただと?そんな馬鹿な」
「本当だよ、ドーラン。だから…これ以上誰も殺さないように、自分を殺した…」
「圧迫されたシステムがバグに変換された時、涙と自己破壊という要素が生まれたのね」
 フェノンとメティーゼが口々にドーランを説得する。彼は黙って二人の話を聞いていたが、やがてぽつりと問いかけた。
「……フィーノは…自分の死を、あいつ自身の力で…選んだんだな…?」
 二人が頷く。迷いはなかった。今ならはっきりとわかる。ヒュプノスの謎が。全てが。
 ドーランは納得したように頷くと、小さな声で笑った。
「怖かったんだよ、ずっと。馬鹿みたいに。あいつが俺を、全てを恨んでいるんじゃないかって…代わりに俺がニンゲンを恨むことで…ずっと逃げてた」
「…ドーラン…」
 フェノンがドーランを見上げると、彼は照れくさそうに小さな彼女の頭を乱暴に撫でた。
「本当に、人間みたい…」
 セフィーリュカは思わず呟いていた。コアルティンスが横で俯く。
「僕にも、わからなくなってきました。命の境界ってどこなんでしょうね…。彼らが生命体ではないと、誰が定義出来るでしょうか…」
「定義なんて勝手に考えたのは人間さ。でも…正しいかどうかなんて誰にもわからない。結局、基準は人間のものでしかないんだからな」
 棚を離れたシェータゼーヌはそう言って、三人のヒュプノスを見ていた。


「ご指示通り、保安局の査察隊を向かわせました。しかし同時刻、宇宙港で大爆発が…」
 アーリアは報告書に目を落とし、概要を説明した。アルソレイは黙ってそれを聞いている。
「査察隊との通信は完全に断たれています。消防部隊による消火活動が行われていますが生存者が確認出来たとの報告はなく、爆発により全滅したものと思われます」
「エヴェスに搭載されていたヒュプノスの自爆システムか。邪魔立てばかりしてくる『人形』め…」
 アルソレイは苦々しげに呟いた。第二艦隊が大きな損害を被って帰還したことに関しては、相手にも同程度の打撃を与えたと見て目を瞑ったが、今回の事象はいささか予想に反する。
「タイムラナー回収の目処が立たねば、計画の最終段階へ移行出来ない。そちらが急務だが…」
「その件ですが、爆発前の宇宙港管制室から正体不明の空間歪曲を感知したとの報告が上がってきています」
「No.44がタイムラナーを所持し自律行動をしている可能性が高い、か。再コントロールが出来ぬのであれば、一刻も早く捕捉したいところだ」
「仰る通りです。しかし…決して小さくない犠牲が出るかと…」
 小さな声で呟き、アーリアは自分の体を抱くように腕を組んだ。プロティアの軍司令部で銀河同盟軍の一個艦隊分の人員を全滅させたというルドの力。完成されたΩシステムは使い方を誤れば、惑星を破壊する兵器と同等の危険性をはらんでいると考え得る。
「第八艦隊のレティウス准佐から受けた、『第五艦隊アーベルン司令の妹』がエルステンを目指していたという報告も気になる。エヴェスに乗っていたとすれば、既にエルステンへ降り立っているかもしれない。No.44と併せて捜索、連行しろ」
「宇宙港の爆発に巻き込まれて死亡した可能性もあります。民間人の少女一人に捜索の手間をとるのですか?」
「シオーダエイルが協力を渋った際に使えるかもしれんからな」
 目的のために手段は選ばない。エルステンのリオンらしい考え方だ。かつて部下だった者の家族を人質にしてまで計画を遂行しようとするアルソレイを見遣り、アーリアは身震いを押さえこんだ。
「了解しました。それでは、第二艦隊が軍用宇宙港で待機中ですので、そちらを捜索へ回させます」
 アーリアは通信端末に指を滑らせた。


 リフィーシュアはワレストスの操縦に慣れてきたようだ。デリスガーナーではとても不可能と思える速度と軌道で宇宙を翔けていく。
 しかし、不意に彼女は速度を緩めた。そして急激に船の向きを変える。手元のレーダーを見ていたデリスガーナーは驚いて両手を計器につけた。
「な、何だ!?」
「岩石を避けたのよ。レーダーに映ってなかった?」
「いや、全然…。何だよ、壊れてんのかこれ?」
 そう言いながら窓の外を見ると、確かに当たったらひとたまりもないような巨大な岩石がワレストスの横を流れていった。あれほどの大きさならば、航宙図にも記されてあってよさそうなものだ。
「おかしいな…さっきからいくらなんでも障害物が多すぎる。前に任務で第一宙域に来たときはこんなことなかったぞ」
「連邦の推奨している安全ルートを無視して飛んでる所為なのかしら、それにしても面倒ね」
「その割にはかなり飛ばしてるみたいだが…?」
「その方が、スリルがあって楽しいじゃない?」
 リフィーシュアはそう言ってにやりと笑った。デリスガーナーは彼女が旅客船の航宙士をやっていることが本気で心配になってきた。
「これだけの腕なら、航宙士になったとき宇宙軍からスカウトがあったんじゃないか?」
「ええ、あったわよ。きっぱりと断ったけどね」
「…アーベルン大将の件があったからか?」
「…もちろん、それもあるわ。でも、そのこと以上に…私が航宙士に憧れたのって、皆が笑ってくれる、楽しんでくれる、そういうものを求めて、だから」
 それもやはり父の影響かもしれない。軍務の合間に帰ってくると、決まって各地で入手した本や写真を見せてくれて、宇宙には綺麗なもの、楽しいものがたくさんあるのだと教えてくれた。
「そうか。そういうことなら、改めて俺から連邦軍に誘ったりするのは野暮だな」
「何よ、そんなこと考えてたの?残念でした、私の意志は固いんだからね」
 悪戯っぽく笑ったデリスガーナーに、リフィーシュアは苦笑する。他の人に同じことを言われたら怒っていたかもしれない。でも、なぜだろう、彼にそう言われて、悪くないと感じる自分がいる。航宙の技術を認めてもらえるのは純粋に誇れることであるし。
「…光が見える。あれね、艦隊って」
 リフィーシュアは目視でプロティアとダスローの艦隊を確認した。デリスガーナーも頷く。
「連合艦隊はまとまって移動してるみたいだな。相対速度を保って近づけるか?」
「任せといて」
 リフィーシュアは思い切り操縦桿を倒した。デリスガーナーは反射的に機器にしがみついていた。

 ワレストスの接近に最初に気付いたのはシレーディアだった。相変わらず仕事が見出せず、結局艦の廊下掃除をしていたところ、窓から一隻の戦闘艇が飛んでくるのを見たのである。彼女は慌ててアランとルイスに報告に行った。
「レンティス少佐が何か情報を伝えに帰っていらしたのかしら。メリーズに収容してさしあげなさい」
 ルイスの指示で、アランはワレストス収容の準備を始めた。
 艦隊と速度を合わせて飛ぶワレストスに向けて、連邦宇宙船共通の収容信号を送ると、ワレストスは流れるような動きでメリーズの横を並列飛行し始めた。
「少佐って…あんなに船の操縦上手かったかなぁ」
 アランが不思議そうに首を傾げる。
 メリーズの船体格納用ハッチが開くと、ワレストスはその中に滑り込み、整備士の指示通りの場所にぴたりと停止した。
 デリスガーナーとリフィーシュが格納庫に降り立つ。
「収容感謝する」
 デリスガーナーが見知った整備士に声をかけると、彼は頷いて艦橋に出頭するようにと伝えた。
 艦橋に入ると、アランとシレーディアが二人を迎えた。
「あれ、少佐お一人じゃなかったんですね」
「緊急事態だったんでね、プロに操縦してきてもらった」
「それでは、先ほどの操縦はあなたが?」
「ええ」
 シレーディアが驚いた様子でリフィーシュアを見る。
「びっくりしましたよ、少佐があんなに操縦が上手いわけありませんもんね」
 アランはそう言って笑った。デリスガーナーがむっとした表情で彼を睨む。
「そんなことはどうでもいいんだよ。それより…俺達はエルステンからお前達に助けを求めてきたんだ。危うく殺されるところで…」
「エルステンから!?」
 アランとシレーディアの声が重なる。
「私達は今からエルステンに乗り込むところなんです。連邦反逆罪でエルステン政府の代表者を逮捕するために…!」
 シレーディアの言葉に、デリスガーナーとリフィーシュアは息を呑んだ。
「そ…そんなことになってんのか?上も随分無茶な決断したな」
「そうでもありませんよ。既に戦闘にもなってますし」
 アランは第十七艦隊と第二艦隊との戦闘に関して二人に語った。リフィーシュアは聞きながら自分の腕を握り締めた。
「エルステンがそこまでプロティアに敵対してたなんて…セフィー達が心配だわ」
「お察しします…」
 シレーディアが優しくリフィーシュアに言う。
「一刻も早くエルステンに到着する必要があるみたいですね。俺、ラルネ司令に掛け合ってみますよ」
 そう言いながら、アランは通信士官に旗艦ヒューゼリアへ連絡を取るように指示した。数秒後、メリーズの艦橋でヒューゼリアとの通信が開かれる。
「…お話はわかりましてよ」
 話を聞いたルイスは少し考えてから頷いた。
「第一宙域に入った時点で、連合艦隊の指揮権はアーベルン司令からあたくしに譲渡されておりますの。ここはその権限を使って一度連合艦隊を解消致しましょう。そして身軽になった第六艦隊でエルステンに急行するのです」
「司令…アーベルン司令へ協力を無理矢理お願いしたのは司令ではございませんか。それを勝手に連合艦隊解消などと…」
「あなたは黙っていなさい、オセイン中佐」
 ルイスの後ろで申し訳なさそうに抗議したルーゼルを、ルイスは相変わらずあっさりと切り捨てた。
「とにかく、決めましたわ。早速会議で皆さんの了解を得て参りましょう」
 言うが早いか、ルイスは通信を切ってしまった。アランが溜め息をつく。
「了解を得ることを前提に会議に行くって…司令らしいなぁ」
「でも、おかげで予定よりも早くエルステンに到着出来そうですね。今回は司令の唯我独尊な性格に感謝しなくては」
「ノジリス大佐、それって微妙にフォローになってない気が…」
 にこにこと笑うシレーディアと、苦笑いするアランだった。リフィーシュアがそれを見て思わず吹き出す。
「ダスローの人って優しいのね。この暗い雰囲気を和やかにさせてくれるなんて」
「いや、この二人はただの天然だと思うが」
 デリスガーナーが小声で突っ込みを入れる。
「でもまあ、とりあえず今は焦っても何も出来ないし…セフィー達が無事だと信じようぜ」