Gene Over│Episode2空と血の邂逅 09干渉

 何の音もしない。
 何の気配も感じない。
 ゼファーはゆっくりと目を開けた。そこに広がっているものを知らずに。
「…!!」
 息が詰まる。周囲の酸素が一斉に除去されてしまったかのように呼吸が出来ない。
 ゼファーの周りに広がっていたのは、果てしない血の海だった。夥しい数の銀河同盟軍兵士が血を流して床に転がっている。誰も動かない。 それらを見渡した後で、ゼファーは自分の置かれた状況を徐々に思い出していた。軟禁されていた場所からこの指令室へ連れてこられて、第五艦隊と通信をさせられ、その途中で後頭部を殴られて意識を失った―。
 そこまで思い出して、不意に後頭部へ鈍い痛みを感じた。思い切り殴られた。脳に障害が残らなければよいが。そんなことを冷静に考えている自分に思わず苦笑する。あまりの血生臭さに気分が悪くなり、移動しようとゆっくり立ち上がった。目眩を感じて一瞬膝をつく。それでも、這うように指令室から脱出した。
「なぜ…生きているんだろう…」
 廊下まで出て、ゼファーは漸く深呼吸と共に言葉を吐き出した。廊下も指令室と同様、血で汚れきっていた。昨日、軍司令部に乗り込んできた敵の兵士たちが、銃を持ったまま肉の塊と化している。残酷な形をした死体を直視してしまい、ゼファーは俯いて呻いた。胃液が上ってくるのを必死に押さえると、荒い呼吸で廊下を歩き始める。
「誰…か…いないのか…?」
 呟いた声に返事はない。他に生存者はいないようだった。どこも血の臭いしかしない。生き物の気配はまるでない。ゼファーは、この世界に生きているのが自分だけなのではないかという妙な錯覚に囚われ始めていた。それとも、自分はもう死んでいて、ここは地獄への入り口なのではないかと。そう思うと足取りは重かった。しかし、立ち止まれない、立ち止まりたくない。どこでもいい、とにかくこの場から離れたかった。自分一人が生きているというこの奇妙な状況を考察するだけの余裕は、彼にはなかった。


 こんなことをしている場合ではない気がする。
 シオーダエイルからしなやかに差し出されたカップをぎこちない笑顔で受け取りながら、デリスガーナーはふとそう思った。
 アーベルン家の人工密度は急激に増大していた。セフィーリュカを助けてくれたお礼に、とデリスガーナー、フェノン、フィオグニルの三人はシオーダエイルから賄いを受けていた。こうやって楽しくお茶を振舞われていると、ここが敵に占領されそうになっている惑星だということを忘れそうになる。
 デリスガーナーは隣に座っているフェノンを一瞥した。彼女は何やら物珍しそうにカップの中の紅茶を眺めている。その赤い瞳は、デリスガーナーが捜しているルドと全く同じ色である。そして、出された紅茶に手もつけず、窓際に立って先程からずっと外を眺めているフィオグニルの瞳も。これは単なる偶然か。それとも―。
 ルドは一体どこへ行ったのだろうか。彼の能力によって差し向けられたムーンは本気でデリスガーナーを殺すために攻撃してきた。無人の偵察機達と同じ。ルドが他人を傷つけることに何の躊躇も持っていないという証拠なのだと思う。一体、ルドは何を焦っていたのだろうか。それほどまでにデリスガーナーに捕まりたくない理由とは、タイムラナーを使う理由とは何なのだろう。
 何はともあれ、彼がタイムラナーを持ち歩いていることが危険であることに変わりはない。ルドの精神状態は普通でないように見えた。このまま彼を放っておいたら、何人が犠牲になるかわかったものではない。ルドがまだプロティアに留まっているのか、それとも既に他の惑星へ向かったのかは定かでないが、彼がタイムラナーという移動手段を持っている一方で、追う側の自分には宇宙へ出る手段がないことは、捜索を進める上で致命的だと思う。
「…司令長官と連絡が取れれば…」
「司令長官?」
 考え込んでいる内に、つい言葉になって口から出てしまったらしい。呟いたダスロー語に、セフィーリュカが反応して首を傾げた。横に座っているフェノンやリフィーシュア、シェータゼーヌも不思議そうに彼を見ていた。
「え、あ、いや、その…上司と連絡が取りたいなぁ、と…」
 大勢の視線に焦りつつ、デリスガーナーは自分の通信機をテーブルの上に置いた。民間人が一般的に持ち歩く手のひらサイズの携帯端末と違い、一回り大きな卓上タイプの機械である。
「…取ればいいじゃない。それとも、壊れてるとか?」
 リフィーシュアが、やや呆れた顔でデリスガーナーを見る。彼は首を振ると、彼女の目の前で通信機の電源を入れて見せた。とても聞いていて気持ちよくはない雑音が、室内に響く。突然の音に驚いたセフィーリュカが、とっさに耳を塞いだ。デリスガーナーは溜め息をつくと、電源を切った。
「宙域を超えた長距離通信技術はまだ安定してないからな。プロティアに着いてすぐの時は、ギリギリ使えたんだが…」
「惑星同士の自転とか公転とかの関係で、色々面倒くさいんだっけ?今、プロティアの中でも通信機能がいかれてるくらいだから、余計かもしれないわね」
 リフィーシュアは彼の通信機と自分の携帯端末通信機を見比べる。デリスガーナーは頷いて両腕を組んだ。
「その通信機が、プロティアの通信設備を介さずに機能出来るタイプなら、動かせるかもしれない」
「あぁ、これは惑星の通信設備とは無関係に、宇宙空間に設置されている設備の方を使うタイプで…って、ちょっと待ってくれ、適当なこと言うなよ」
 シェータゼーヌが突然そう言ったので、デリスガーナーは片言のプロティア語で答えながらも困惑した。シェータゼーヌはテーブルに置かれた通信機の電源を入れ直している。
「適当なことじゃないさ。先日、ちょうどその辺りの理論値を計算していたところだ。……ダスロー語は読めないんだよな…セフィー、このメッセージを翻訳してくれるか?」
「あ、はい。えっと…『現在地と通信先の、絶対座標を入力してください』…?」
 通信機のモニタに映し出されるダスロー語を、セフィーリュカは次々に訳してシェータゼーヌに伝える。彼は時折考えながら、キーボードで数式と数字を打ち込んでいく。
「この数式、この間教えたよな?関数の因子は距離と時間と?」
「えぇと…歪み?」
「そう、正解」
 数式を打ち込む途中で、シェータゼーヌはセフィーリュカの理解力をさりげなく確認した。その先も次々と数式が並んでいくが、セフィーリュカには既にわからない領域だった。
「ふうん、なるほどな…」
「わかるの?」
「…いや、さっぱり」
「…だと思ったわ」
 並べられていく数式を見ながら、わかったような顔で頷いているデリスガーナーを、横からリフィーシュがは呆れた顔で見つめた。
「…理論上はこれで合ってると思うんだけどな。あとはいつも通り通信先の番号を入力してみてくれ」
 シェータゼーヌは通信機をデリスガーナーに手渡した。耳に響く雑音が消え、モニタの感度も良好になっているらしいことに驚く。そのまま、半信半疑で番号を打ち込む。
「…お?ちゃんと呼び出してる…」
 聞き慣れた呼び出し音がして、数秒後にそれが止むと、モニタに軍服を着た壮年の男性将校が映し出された。宙域を超えての通信とは思えないほど鮮明な映像である。
「ラルネ司令長官!?」
「…何だね、自分から呼びかけておいて、そう驚くこともあるまい」
 ネイティ・デア・ラルネ司令長官は呆れた顔で、自らが内密に仕事を依頼していた特殊戦闘員のことを見ていた。

 キッチンからリビングへと向かいながら、シオーダエイルはガラス戸の前で立ち止まった。そのエメラルド色の瞳には微かな憂いが含まれている。その悲しい瞳が捉えていたのは、赤い瞳を持つ二人のエルステン軍人。
「…エルステン…」
 小さく呟く。
 八年前、自分が宇宙連邦軍人として最後の任務を遂行した人工惑星。
 夫と共に踏み込み、そして自分しか帰還出来なかった場所。
 失ったものは夫だけではない。多くの仲間。そして―。
「……っ…」
 不意に頭痛を感じ、眉をひそめる。
 いつもそう。あの時の出来事を思い出そうとするとこうなる。
 エルステン上陸前に、気をつけて、と優しく肩を抱いてくれた夫の顔は良く覚えている。でも、その後の出来事はひどく曖昧になってしまってわからない。途切れた記憶は、傷ついてボロボロになった状態からプロティアへ帰還するため仲間に助け出されたところから再度始まって―。
 夫がなぜ、どのように死んだのか、シオーダエイルにはどうしても思い出すことが出来なかった。

「長官、聞こえますか!?レンティス少佐です!!」
 デリスガーナーは通信機に向かって叫んでいた。スピーカーから大きな咳払いが聞こえる。映像と同じく、音声もクリアに室内へ響く。
「そんなに大声を出さずとも聞こえている。少佐、一体今までどこで何をしていたんだ。君と連絡が取れない所為で、イーゼン君には怒鳴られるし、娘のルイスには平手打ちされるし…」
 恨みがましく呟くと、ネイティは溜め息をついた。とても司令長官とは思えないその態度に、デリスガーナーが呆れて周囲を見回すと、不意にシオーダエイルが通信機に近寄ってきた。デリスガーナーの後ろから、モニタに優しく微笑みかける。
「相変わらずですね、ラルネ准将。いえ、今はもっと階級が上なのでしょうね」
「なっ!?き、君は…」
 通信機の向こうで、何かが倒れたような音がする。突然のことに驚いたネイティが何かデスクから落としたらしい。デリスガーナーは笑いをこらえるのに必死で、とっさに答えられず、その間にシオーダエイルが片言のダスロー語で穏やかに応対した。
「アーベルンです。お久しぶりですね」
「ア…アーベルン准将!?レンティス少佐!君は一体どこにいるというんだ!?」
「えーと…諸事情ありまして、アーベルン家にお世話になってます」
 全神経を使い笑いをこらえながら、デリスガーナーは至って真面目にそう答えた。
「…ということは、今プロティアにいる訳だな?」
 漸く落ち着きを取り戻したのか、ネイティは威厳ある口調で尋ねてきた。
「ええ、ルド少年とオーパーツを追ってここに辿り着いたのですが、まだ保護出来ないでいます…」
「少佐!その件はあくまで内密に…っ」
「ああ、もう無理ですよ長官。この家の娘さんが、ルド少年と接触しました。そして彼がオーパーツを使う現場を、彼女を含め大勢の人間が目撃してしまいましたから。隠し通すことは出来ません」
 大きな溜め息が聞こえる。それきりネイティは黙ってしまった。しかし、十数秒後に重々しく口を開いた。
「仕方がない…。それより少佐、プロティアの状況は?」
「昨夜、銀河同盟軍とプロティア地上軍の間で大規模な地上戦があったようですが詳しくは…。通信や情報の設備がほとんど機能していないようで情報が全然入って来ないんですよ」
 突然話題を転換され、デリスガーナーは情けない声を出した。
「こちらもまだ事態を把握出来ていない。勝手に第六艦隊が出動していったから、宇宙では恐らくプロティア軍のサポートとして戦っているのだとは思うが…」
「第六艦隊が?では、戦闘艇の一隻くらい、貸してもらえますかね。プロティアから出る方法がなくて困っていたところです」
「戦闘が落ち着いた頃、ルイスへ直接交渉してみるといい。イーゼン君が既に手配している可能性もあるが」
「了解しました」
 宇宙船が工面出来る可能性がもたらされただけでも、かなり良い情報を得たのではないだろうか。デリスガーナーが敬礼すると、ネイティは少し申し訳なさそうな表情で部下を見ていた。
「直接的に手助け出来ず、苦労をかけるな。…アーベルン准将、部下がお世話になっているようで、改めて礼を言う」
「お気になさらず。それより、今の私は一介の主婦ですよ、ラルネさん」
「ああ、すまないね。久しぶりに声が聞けて良かったよ、アーベルン君。それでは」
 プツンと小さな音がして、通信は途絶えた。通信機をしまっているデリスガーナーの横で、セフィーリュカとリフィーシュアはリビングに置いてあるテレビの電源を入れ、きちんと映る局を探そうとボタンをいじっていた。
「いや、驚きました。まさかラルネ司令長官とお知り合いだったとは」
 セフィーリュカ達が奮闘している間、デリスガーナーは微笑んで立っているシオーダエイルに目を遣った。
「私が軍にいた頃は、プロティアとダスローでよく連合艦隊を作っていましたから、彼にはその時お世話になったんですよ」
 シオーダエイルはそう語り、懐かしそうに目を瞑った。丁度その時、テレビに鮮明な映像が映し出された。軍司令部の建物から上がる煙、そして次々と運び出される血まみれの人間達。その人間達は誰一人として動かない。
「!!」
 セフィーリュカは自分の呼吸が止まるのを感じた。映像の残虐さに身が強張る。目の前が暗くなり、世界が揺れる。
「セフィー!」
 リフィーシュアの叫びが室内に響く。その場に倒れたセフィーリュカは、偶然近くにいたフィオグニルによって床の手前で受け止められた。
「観測…精神的なものによる失神と判断。呼吸は正常」
 淡々と説明するフィオグニルのエルステン語は、フェノンにしかわからない。大事には至らなかったことを安心するフェノンに比べ、リフィーシュア達は慌ててフィオグニルの抱えているセフィーリュカに駆け寄った。
「大丈夫、驚いて失神しただけだと思う。でも、きちんと休ませないと」
 シェータゼーヌがそう言いながらセフィーリュカの頬を軽く叩いたが、まるで反応はなかった。
「二階のセフィーの部屋に寝かせましょう。すみません、フィオグニルさん。そこまで運んでいただけますか?」
 シオーダエイルはフィオグニルに話しかけてから、はっとした。言葉が通じないことに気付いたのだ。しかし、フィオグニルは自分を見つめるシオーダエイルの視線に数秒悩んだ後、セフィーリュカを優しく抱き直すとゆっくりと歩き出した。シオーダエイルは胸を撫で下ろすと、先導して部屋を出て行った。
「フィオ…」
 フェノンが小さく呟く。フィオグニルが人間に優しく行動してくれていることが、なぜだかとても嬉しかった。二人が去っていったドアを眺めていたフェノン以外の三人は、セフィーリュカが目にしたテレビの映像を見遣る。残虐性に富んだ映像は消えることなく流れ続けている。
「これは、一体何が…」
 デリスガーナーが呟いた丁度その時、アナウンサーが話し始めた。
「昨晩未明から銀河同盟軍により占拠されていた宇宙連邦軍司令部プロティア支部が、何者かによって襲撃されました。建物周辺は、プロティア地上軍兵士と銀河同盟軍兵士の死体で埋め尽くされています…」
 アナウンサーの声に合わせ、映像も順次変わっていく。血の水溜りができた床。血まみれの兵士の体、既に人間であることすら判別出来ないような姿をしたもの。
「…っ…」
 途中で耐えられなくなったシェータゼーヌが目を背ける。対するリフィーシュアとデリスガーナーは食い入るように画面を眺めている。気付けばその後ろからフェノンも、平然とした顔でそれを眺めていた。
「どういうこと?プロティアの軍司令部で戦闘があったの?でも襲撃って…」
 リフィーシュアが急に言葉を切ったので、全員の視線が彼女に集中した。彼女はテレビを見たまま凍りついている。
「そ、そうよ…ゼファーは?…ゼファーはあそこにいるはずなのよ!?」
 リフィーシュアに突然両肩を捉まれ、デリスガーナーはとっさに言葉を発することが出来なかった。その一瞬の間に、テレビからアナウンサーの声が聞こえてくる。
「なお、現時点では当局に生存者の情報は入っておりません…次のニュースです」
「…ゼファー…」
 リフィーシュアは小さく呟くと、力無くその場に座り込んだ。セフィーリュカが今の報道を聞かなくて良かった。心の底からそう思った。
「フィオ、何が何だかわからないけど…あたし達、軍司令部に行くべきだよね?」
 今まで静かにテレビを凝視していたフェノンが後ろに振り向き、セフィーリュカを部屋に運んで戻ってきたフィオグニルを仰ぎ見た。彼は小さく首を傾げると、両腕を組んで考え始めた。
「命令内容確認。プロティアに残存中の敵勢力を駆逐すること。現在、周囲に敵反応無し。…敵がこの場に侵入してくる確率、12.7%。…よって待機及び現状維持を推奨する」
「待機って…正気?軍司令部へ向かった方が、明らかにあたし達の敵がいるわ!フィオ、観測機壊れてるんじゃないの?」
「計算結果に修正の必要なしと判断」
「…分からず屋!」
「ちょっと待て…お前達、何をそんな怖い顔で言い争ってるんだよ?」
 突如聞きなれないエルステン語で喧嘩を始めたらしい二人を何とか収めようと、シェータゼーヌが割って入る。しかし、二人は同時に彼の方を向くと、同じ赤い瞳で睨み付けた。
「お兄ちゃんは黙ってて!」
「部外者には関係のない話だ」
 そう声を揃える二人であったが、怒鳴りつけられたシェータゼーヌには、その内容すら理解出来ない。セフィーリュカのいない今、二人の言葉を理解出来る者は一人としていなかった。
「とにかく、あたしは行くわ!止めても無駄だからね!」
 フェノンはそう言い捨てると腰に銃を提げ直し、部屋を出て行こうとした。会話の内容がわかっていない他の三人が驚いて彼女を見る。
「ちょっと!フェノンちゃん、だっけ?そんな物騒な物持ってどこへ行くつもりなのよ!?」
「お譲ちゃん、まさか司令部に乗り込む気じゃないだろうな?」
 フェノンの腕を掴み、部屋を出て行くのを妨げたリフィーシュアが尋ねるのと、デリスガーナーが呆然とした顔でフェノンに尋ねたのは同時だった。しかし、どちらの言葉もフェノンにはわからない。
「離してよ!あたしはもうどうしていいのかわからないの!折角プロティアにまで来て、艦隊の行動はバラバラだし、突然降下命令が出されるし、人間達はみんなあたし達のこと、すごく悪い人を見るみたいな目で見るし…。もう何が何だかわからないの!」
 フェノンはまくしたてると、リフィーシュアの腕を振りほどいた。廊下から玄関を出て外に走っていく。一人、フェノンの言葉を理解しているフィオグニルが、辛そうに俯く。
「フェノン…」
 フィオグニル以外は全く訳がわからないまま、しばらくフェノンが駆け抜けていった廊下を呆然と見つめていたが、やがてデリスガーナーが我に返ったように首を横に振った。
「何なんだ一体?まあ、細かいことはいい。彼女を追った方が良さそうだな。何だか様子が普通じゃなかった」
「そうね。私も行く」
「リフィーシュア、君は民間人だ。ここで待って…」
「嫌よ!弟が無事かどうか…この目で確かめたいの…!」
 デリスガーナー、そしてリフィーシュアが玄関に足を向ける。二人が出て行く直前に、フィオグニルが無言でそれに倣った。玄関の戸を開ける前に、リフィーシュアが廊下の方に振り返る。
「シェータさんはここで待ってて。セフィーを頼んだわね」
「あ、ああ…」
 三人が去ってしまった玄関を、シェータゼーヌはしばらく見つめていたが、不意に背後に近づいた気配に振り返った。シオーダエイルが少し悲しそうな表情で彼を見ていた。
「シオーダさん、セフィーは…?」
「大丈夫。すぐに気が付いたけれど、少し眠らせてきたわ」
「そうですか…。まったく…次から次へと、何なんでしょうね」
 宙へと投げかけられたその問いに答えることはなく、シオーダエイルは玄関のドアを呆然と見つめているだけだった。


 そろそろ首が痛くなってきたなぁ。でも、目を離せないんだよね。
 …あーあ、あんなに撃たなくてもいいのに。あれって宇宙連邦軍の艦隊だよね?味方のくせに、プロティアを壊しちゃうつもりなのかな?
 ディール…来てくれないのかなぁ。僕、このままプロティアにいたら死んじゃうかもしれないよ?もう何日食べてないんだっけ…?いくら我慢強い僕でも、そろそろ限界かも。
 でも、きっと来るよね?それが僕等の使命だもんね?